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お寿司にショウガはつきものですね。これは口直しや食欲増進のためだけではなく、実はショウガの抗菌作用を利用して、生魚の毒を消し、食中毒を防止するためのものなのです。
ショウガの起源は古く、インド原産とされ、中国でも『史記』や『礼記』に記載があるほど古くから用いられています。
一般的には食品…香辛料、香味野菜として用いられますが、漢方では「体を温め」「胃腸の働きを調整し」「水分代謝を活発にする」薬草として多くの漢方処方の中に配合されています。
生のショウガに対し、蒸して乾燥させたものを乾姜(かんきょう)と呼び、温める働きが増強されるため、冷え症や、冷えからくる頭痛・咳・胃痛・下痢・生理痛・神経痛に効果があります。
またショウガに蜂蜜や黒糖・葛粉等を加えたショウガ湯は、身体が温まるとても美味しい食品です。冬の疲れや冷えにはお薦めですし、漢方薬を溶かして服用する時にも重宝するすぐれものです。
以前いちど取り上げましたが、最近静かなブームになっていることもあり補足をさせていただきます。
様々な食効薬効があるショウガは、健康食品に加工されたり食品として様々な形で利用されていますが、漢方では ①生のショウガ と ②蒸して乾燥したショウガ を明確に区別します。
①生姜(しょうきょう)…発汗・発散作用が強い
②乾姜(かんきょう) …体を温める作用が強い
主に生姜はカゼや吐き気に使い、乾姜は冷えの改善に使用します。乾姜に黒糖・葛粉を加えたしょうが湯は、身体が温まるとても美味しい食品です。
冷え症の人が生姜を取りすぎると汗をかいて反って体が冷えるので注意しましょう(胃にもこたえると思います)。また、乾姜はたしかに冷えに有効ですが、基本的に胃腸を温めるものなので他のタイプの冷え症(腎陽虚や血虚による)の根本改善はできません。
過信しすぎず、適切にご利用下さい。
後漢末の中国(三国志の時代)…洛陽の若者がカニによる食中毒で死にかけていました。そこに名医の華佗(かだ)が現れ、紫の薬草を煎じて与えると若者はたちまち蘇り、以来その薬草を「紫蘇」というようになったということです。
シソは色素の有無によって青ジソと赤ジソに分けられますが、薬用には梅干しの着色などに用いられる赤ジソの葉が使われます。
漢方では「蘇葉」といい、香蘇散や参蘇飲など初期の風邪薬に良く配合され、特にセキには効果的です。またストレスによる胃腸症状や妊娠悪阻、アレルギーにも効果があります。もちろん語源となった魚介類の中毒やジンマシンにも効果があります。刺身のツマに青ジソが添えられているのは、その抗菌作用により生臭さや魚毒を消すためです。またシソの実は「蘇子」といってセキや喘息、便秘に使用します。
お刺身を食べるときはシソの葉や実も一緒に!
お弁当やおにぎりにはシソ入り梅干しを!
これから食中毒の季節に向かいます。どうぞ身近な薬草をお役立て下さい。
ここでいう人参とは食用野菜の赤いニンジンではなく、ウコギ科の山草の主根である薬用人参(別名朝鮮人参・高麗人参・御種人参)のことです。
補気の王様といわれ、薬膳料理にも必ず出てくる、心身の活力を増す代表的な強壮食品です。
漢方では「人参七効説」というものがあり、
①補気救脱:疲労回復・体力増進・老化防止
②益血復脈:貧血・低血圧・心臓虚弱を改善
③養心安神:ストレス・不眠・自律神経失調を改善
④生津止渇:肌の乾燥・体液不足・口渇を改善
⑤補肺定喘:肺虚弱や喘息を改善
⑥健脾止瀉:胃腸病・下痢・便秘・食欲不振を改善
⑦托毒合瘡:皮膚病・肌あれを改善
するとされています。
人参はその性質から、瓊玉膏・補中益気湯・小柴胡湯など実に多くの漢方薬に配合されていますが、今の時季に最も利用されるのは夏バテの特効薬「生脈散」(しょうみゃくさん)です。生脈散の構成生薬の中でも人参は、夏バテによる体力低下と発汗による体液不足を補うための欠かせない主役となっています。
世界各国で元気が出る食材として使われているニンニクの薬効は古くから知られ、いろいろな病気の治療に応用されてきました。たいへん豊富に栄養成分を含んでいますが、薬効の本体は含硫アミノ酸やミネラルなどの微量な生理活性成分にあります。
一般には強壮効果が有名ですが、本当に重要なのは「体を温めて免疫力を高める作用」です。冷えや低体温による免疫低下は、各種感染症や炎症・ガン発生に影響を及ぼしますが、そのリスクを低減してくれるのです。アメリカ国立がん研究所で発表されたデザイナーフーズ計画では、ニンニクが抗ガン食品のトップに選ばれています。
他にも抗酸化作用や動脈硬化予防効果など優れた働きがありますが、ニンニクは臭いと刺激が強いので(特に生は)取り過ぎに注意しましょう。
(薬用ニンニクを低温熟成して抽出したレオピンシリーズでは、有用成分の増加とともに刺激成分は一切なくなっています)
三七、田三七、山漆などの別名もある田七は日本では身近とは言えませんが、中国やアジアでは肝臓の特効薬である「片仔廣」や、ケガの常備薬である「雲南白薬」の主成分として、たいへんポピュラーな薬草です。
田七には様々な働きがあり、血管外への出血に対しては止血・消炎・鎮痛をしますが、血管内では血栓を溶かし、血管を保護し、血流を改善します。また肝臓や心臓・胃腸の細胞を守るため、肝炎・胃潰瘍・高脂血症・糖尿病・炎症性疾患・出血性疾患にも応用される優れものです。血液と細胞にとってたいへん有用であるため、お金に換えられない貴重な薬ということで金不換(きんふかん)の呼び名もあるくらいです。
中国では、内服薬以外に歯磨き粉やスプレー、貼り薬、救急絆創膏にまで配合されています。本国では田七の効き目は常識なのですね。日本にはない製品なので、私は必ず買って帰ることにしています。
麦とろご飯やお好み焼きがまず頭に浮かぶヤマノイモは、自然薯(じねんじょ)とも呼ばれ、その滋養効果の高さから山鰻(やまうなぎ)とも称されます。
正月にヤマノイモを食べる地方が多いようですが、これは1年間の無病息災を願うためだといわれています。
ヤマノイモには消化促進や活性酸素除去の酵素が豊富に含まれているので、胃腸の弱い人には最適で、滋養強壮以外に、脾・肺・腎の弱り…①胃腸虚弱・下痢②喘息・咳・息切れ ③腎虚症状を含む内臓疲労・頻尿などの症状に効果があります。
漢方では乾燥させた粉末を山薬(さんやく)と呼び、山でできる薬の代表として別格に扱ってきました。
漢方処方でも六味丸・八味丸などの腎気丸類や参苓白朮散といった脾・肺・腎の体質改善薬には欠かせない構成生薬となっています。
ヨモギの香りがする草餅はとても美味しいですね。食用にも用いられるヨモギは山野に自生するキク科の多年草です。ヨモギには古くから毒気・邪気を払う力があり、食すると寿命が延びると言われていました。葉裏の繊毛を乾燥させて揉むとお灸に使う『もぐさ』になります。
薬用とするのは葉で、漢方名を艾葉(がいよう)といいます。体を温めるとともに、生理痛・生理不順・不正出血・不妊症・胎動不安・腹痛などに効果があり、まさに女性のための薬草です。また、冷え症の方の入浴剤としてもよく使われています。ちなみに、私が草餅を美味しいと感じるのは…冷え症だからです。
ラッキョウはユリ科の根菜で、白色の鱗茎を使用します。食用としては甘酢漬が代表的で、シャキシャキとした食感と味はカレーの薬味としてよく合いますね。近年では血栓予防や食欲増進、疲労回復効果が知られてきましたが、実は昔から立派な漢方生薬です。
漢方では乾燥したものを薤白(がいはく)と呼び、体を温め、気を巡らせ、痛みを取る働きがあるため、腹痛・悪心・下痢などに用いられます。特に寒い季節に胸部や背中に痛みを感じる「胸痺(狭心症や心筋梗塞などの心臓病)」には欠かせない薬草です。
私も冷えによる心臓や血管への負担を減らすため、冬場は少しずつでも食べるよう心がけています。
カレーという料理は体を温めて発汗させ、結果的に体を冷やすものなので、付け合わせのラッキョウで冷えを予防するという意味では、とても理に叶った組み合わせなのです。
大きくなりすぎると食用にも木材にも適さなくなることから、図体ばかり大きく役に立たないものを「ウドの大木」といいますが、実際にはウドは、食用としては春の香り高い山菜であるだけでなく、薬用としても欠かすことのできない薬草のひとつです。
ウドはウコギ科の多年草で、日本全国に自生しています。漢方では根の部分を独活(どっかつ)といい、発汗・鎮痛・消腫・利水などの働きにより、腰痛・関節痛・神経痛・リウマチなどの重要処方である「独活寄生湯(どっかつきせいとう)」や、化膿性皮膚疾患に用いる「荊防敗毒散(けいぼうはいどくさん)」「十味敗毒湯(じゅうみはいどくとう)」などに配合されている、きわめて有用な薬草といえます。
栽培品のシロウドもありますが、香りや薬効は山に自生しているヤマウドの方が優れています。ウドの大木ではないウドの実力をご紹介しました。
最近では二日酔い予防のドリンク剤で有名なウコンですが、
ウコンの仲間には代表的なものとして
①ウコン(秋ウコン)
②キョウオウ(春ウコン)
③ガジュツ(紫ウコン)
があります。
いずれもショウガ科の薬草で、気血の巡りを良くし、胃腸や肝臓の働きを助ける働きがあるのですが、①には身体を冷やす寒の性質が、逆に②③には身体を温める温の性質があります。
また①は黄色色素クルクミン(胆汁分泌促進や健胃の働きがある)の含量が多く、沢庵の色づけやカレーの香辛料(ターメリック)、衣服の染料などにも利用される、とても身近な薬草です。
【注意1】
ウコンと、服用する人間それぞれの側に「寒」「熱」の違いがあるので、間違えると症状が悪化することも考えられます。ちなみに有名な某ドリンク剤は「寒…冷やす」働きがあるので、服用する側は「熱…暑がり、胃に熱がある」ことが大切です。
【注意2】
秋ウコンは鉄分含量が多いため、肝機能障害(肝炎や肝硬変)で瀉血や鉄分摂取制限などが必要な場合は、かえって肝機能を悪化させるおそれがあります。鉄分の少ないウコン製剤や、田七など鉄分の影響のない他の漢方製剤のほうが安全でしょう。
3種類のナシ…日本梨、中国梨、西洋梨のうち日本梨と中国梨は同種です。中国では桃と並んで好まれ、漢の武帝の庭園にも植えられていました。
日本梨には赤梨(幸水や長十郎)と青梨(二十世紀等)があり、その瑞々しさと美味しさは世界でも定評があります。
唐の時代の宰相の母親が気管支炎を患った時にナシを食させて治ったことから咳の妙薬としても有名になりました。ナシには肺・胃に働き、炎症を冷まし、肺を潤して咳や痰を止め、口渇を癒やす働きがあるのです。
したがって、肺の気管が乾燥し、かつ熱がこもっているタイプのカゼ・気管支炎・扁桃腺炎・咽痛に有効で、そういった時に使用する「桑杏湯」という名の漢方処方の中にも「梨皮」として配合されています。
ただし、潤し冷ます働きがあるので、多痰の人や熱症状がない人、冷え症の人は注意が必要です。
ナシも立派な生薬(薬草)なんですね。
木の芽は焼き物・煮物など料理の彩りや吸い口に、果実は佃煮やちりめんざんしょうに、果皮は香味料や七味唐辛子の材料として…山椒は日本料理に欠かせません。
日本では兵庫県養父市八鹿町、朝倉地区原産の「朝倉山椒」が有名ですね。中国では同属の花椒(別名:蜀椒)が有名で、四川(昔は蜀の国)料理には欠かせない香辛料です。
小粒でピリリと辛い成分はサンショオール、薬草としては体…特に腹中を温める力が強く、健胃・鎮痛・駆虫作用があるため、胃腸が冷えて痛んだときに用いる大建中湯や、腸内寄生虫を駆除する烏梅丸という処方の中に配合されています。一年の邪気を払い長寿を願って正月に呑む屠蘇散にも入っています。
他にも冷えからくる嘔吐・下痢・しゃっくり・歯痛にも効きめがある、まさに身近な薬草だといえます。
杏仁豆腐にトッピングされている鮮やかな赤い実といえばわかるでしょうか…あれがクコシ(クコの実)です。
クコシは薬膳粥などの薬膳料理の具に使われたり、ドライフルーツとして食されたり、漬け込んで薬用酒にしたりと様々な用途のある果実ですが、実は立派な薬草です。
クコの木は、その果実・根皮・葉を枸杞子(クコシ)・地骨皮(ジコッピ)・枸杞葉(クコヨウ)といい、いずれも薬用に使われるのですが、なかでもクコシは滋養強壮効果が高く、肝・腎の働きを補って老化防止に役立つため「仙人の杖」という別名があるほどです。
漢方では、足腰の弱りや血圧・血糖の乱れ、眩暈、疲れ目や眼病の重要処方である杞菊地黄丸や左帰丸などに配合されています。『神農本草経』で上薬とされているクコシは、その薬効と応用範囲の広さからとても貴重な薬草だといえます。
梅はバラ科の植物で、遣唐使によって中国から伝来したものとされていますが、梅の花や梅干しは日本には欠かせないものですね。中国では紀元前から酸味料として用いられており、塩とともに最古の調味料だとされています。
梅果実の塩漬けである梅干しはクエン酸などの有機酸が豊富で抗菌・整腸・疲労回復作用があり、下痢や食あたりをはじめ胃腸病全般に有効なため、江戸時代からすでに旅行に欠かせない携帯食品でした。
漢方では未成熟果実を燻蒸させたものを烏梅(ウバイ)といい、收斂固渋…出過ぎるものを収める働きがあるため、下痢・嘔吐・咳・腹痛・消化不良・寝汗・口渇・出血などに用いられます。
ところで近所の神戸岡本梅林は、古来より「梅は岡本、桜は吉野、みかん紀の国、くり丹波」と唄われているほどの名所なのだそうです。
最近ではオシャレにアプリコットとも呼ばれるアンズは、バラ科サクラ属の落葉高木です。コーカサス原産で日本への伝来も早く、カラモモと呼ばれて万葉時代にはすでに果樹・薬用として栽食されていました。果実は生食のほかジャムやシロップ漬けなどにして食します。またアンズの種を杏仁(キョウニン)といい、粉末を風味づけに使ったのが杏仁豆腐(こちらはアンニンと読むのが一般的)です。
薬用に使うのもこの杏仁で、止咳平喘・潤腸通便の働きがあるため、咳や喘息に効果のある麻黄湯・麻杏甘石湯・杏蘇散に、また便秘に効果のある麻子仁丸・潤腸湯などの漢方処方に配合されています。
日本で販売されている杏仁豆腐は、実際にはアーモンドエッセンスを用いて作ったものが多いので、残念ながら咳には効きません。また杏仁には小毒(アミグダリン)があるため、多食は避けるようにします。
…個人的には杏仁豆腐とともにアンズの果実酒である杏露酒(シンルチュウ)が好きですね。
みかんといえば温州みかんですが、広い意味では甘味のある柑橘類の総称でもあります。実際、柑橘類の効果はほとんど共通で、実・皮ともに様々な薬効を発揮します。
とても美味しいみかんの実(果汁)の性質は「涼」で、食べ過ぎると体が冷えるため、冷え症・膀胱炎を起こしやすい人・喘息で痰が多い人は注意が必要です。
漢方では、成熟した皮を乾燥させたものを橘皮(きっぴ)、橘皮をさらに保存したものを陳皮(ちんぴ)と呼び、胃腸の働きを高め、吐き気を止め、咳・痰を取る働きがあることから、胃腸を整える六君子湯・平胃散・二陳湯などの漢方薬に配合されます。また、まだ青い皮を乾燥させた青皮(せいひ)は気の停滞(ストレス)をとる妙薬です。
面白いことに皮の性質は「温」であるため、冷え症の方にオススメです。みかん風呂やゆず湯はよく温まるための生活の知恵なんですね。また陳皮は七味唐辛子の原料でもあります。
栄養学的には、みかんの袋には水溶性食物繊維ペクチンや血管を丈夫にするヘスペリジンが含まれているので、袋ごと食べるのがオススメです。
私にとっては「コタツと猫とみかん」こそが定番であり、桂米朝師匠の噺『千両みかん』が大好きなのですが、いかにも昭和の人間でしょうか?
古くから味噌汁・冷奴・蕎麦・うどんなどの薬味として、また鍋料理に欠かせない食材のひとつでもあるネギは、弥生時代に中国~中央アジアから伝来したと考えられています。関東では白ネギが、関西では青葉の部分が多い青ネギが好まれますね。栄養学的には青葉のほうが優れていますが、薬用には香りの強い白根の部分を使用します。
漢方では白根を葱白(そうはく)と呼び、体を温め、汗をかかせる働きがあることから、カゼ(による悪寒・発熱・頭痛)の特効薬として用いられてきました。また胃腸を温めて機能を調整することから、冷えによる腹痛にも有効です。
最近の研究では、さらに血流改善や血栓予防効果、各種細菌(ジフテリア菌・結核菌・赤痢菌・ブドウ球菌・連鎖球菌・真菌など)の活動抑制効果があることが判っています。
このように辛味で温性で発汗の働きがある食材は、ネギの他にショウガ・シソ・シナモン・コリアンダーなどがあります。これらはまさに寒い時期に必要な食品・生薬ですが、冷え症でも虚弱で汗が出やすい人は少なめに取るほうが無難です。
昔からドクダミ、センブリ、ゲンノショウコの3つは日本の代表的な民間薬だといえるでしょう。
ドクダミの名は、その臭さから“毒を溜めている”ことに由来するという説がありますが、強い臭気は殺菌効果のある精油成分で、毒ではありません。
薬草としての名はジュウヤクですが、中国では魚腥草(生臭い魚の草)とこれまた強烈な名前です。とはいえ乾燥したり、ゆでたり炒めると臭いがなくなるため、中国では日常的な野菜の扱いで、畑で栽培され、八百屋で販売されています。
清熱解毒と利尿通便の働きがあるので、日本ではドクダミ茶などの形で、民間薬としてニキビや吹き出物・化膿性湿疹・便秘症などによく使われます。高血圧や動脈硬化の予防効果もあるとされていますが、あくまでも民間薬なので頼りすぎは禁物です。冷やす働きがあるので、お腹が冷えやすい人は注意しましょう。
おばあちゃんの知恵として、湿疹や切り傷・蓄膿症などに生葉を揉んで皮膚・粘膜に貼り付けるという使い方もあります。…貝原益軒は十種の病に効くから“十薬”となのだと書き記しています。
ちなみにタイ料理で使われるパクチ、コリアンダーの葉にも同じ臭い、同じ成分があります。
麦芽はイネ科の穀物である大麦の発芽種子を乾燥させたもので、主にとしてビール・ウイスキー・水飴などの原料となっています。
漢方では、脾胃(消化器系)に働いて、米や麺・芋類などのデンプン質の消化を助ける「開胃消食」の良薬です。
また乳汁の分泌を抑制する働きがあり、昔から乳腺炎軽減や断乳を目的に使われます。乳汁分泌はプロラクチンというホルモンと関係があり、麦芽はこのプロラクチンを下げる働きがあるとされています。
妊娠授乳していないのにこのホルモンが多いと(高プロラクチン血症)無月経・無排卵月経・不妊の原因になるので、こういう場合に店頭では気の巡りを改善する漢方薬と併せて「炒り麦芽」をオススメしています。
ちなみに、日本で40年前から販売されているあの『強い子のミロ』も粉末麦芽を原料とする飲料なんですね。
日本の食卓では身近な存在であるゴボウは、食物繊維や抗酸化成分が含まれていることから腸内環境改善、便秘・高血圧・糖尿病の予防効果が期待されるヘルシーな野菜です。
千数百年前に中国から渡来した後に改良を加え作物化されたのですが、ゴボウを食用にするのはなんと日本だけで、欧米人から見ると日本人は「木の根を食べるヘンな民族」なのだそうです。実際、ヨーロッパでは根を食用ではなく利尿効果のあるハーブとして利用していました。
漢方ではもっぱら清熱・解毒作用のある根や種子を用いますが、特に種子(牛蒡子:ゴボウシ)は発熱や咳・痰・のどの痛み・皮膚の炎症・便秘などに効果があり、銀翹散・消風散・柴胡清肝湯といった漢方処方にも配合されています。また昔から民間療法として授乳中の乳腺炎に用いられています。
最近はゴボウ茶なども流行っているようですが、牛蒡根も牛蒡子も寒性で冷やす力が強いため、胃腸虚弱や冷え症、軟便気味の方には向いていません。乳腺炎に使用する際も、冷えすぎる場合は煎じるのではなく、種子を炒って直接食べる方がよいでしょう。
それにしても「きんぴらごぼう」の美味しさを知っているのが日本人だけとは残念です。
くずきりやくず湯に使われるくず粉は、秋の七草のひとつでもあるマメ科植物のクズの塊根から生成されたデンプンで、日本では昔から食用に用いられてきました。クズは涼性なので、くずきりもくず湯も胃腸の熱を冷まし暑気を払う夏の風物食です。
薬草としては花を乾燥させたものを葛花(かっか)、根を乾燥させたものを葛根(かっこん)といいます。葛花は胃熱をともなう二日酔いに使いますが、使用頻度が高いのはなんといっても葛根で、発汗解熱や口渇を止める、筋肉の緊張を和らげるなどの働きがあり、葛根湯・参蘇飲・独活葛根湯などの漢方薬に配合されています。
葛根湯は、自然発汗がない初期のカゼや扁桃腺炎・中耳炎・蓄膿症・肩こり・大腸炎などの熱性の病気に広く使われるためか、江戸時代にはどんな病気でも葛根湯を出す「葛根湯医者」という言葉まであり、落語の枕話にも使われるほどです。
同じカゼの養生でも、体やお腹が冷える冬カゼには温かいしょうが湯を、熱の勢いが強い夏カゼには冷たいくず湯を飲む(熱勢が強い冬カゼの場合は熱い葛湯にしょうが湯を混ぜる)のが日本人の知恵です。
クルミはお菓子やおつまみとしてとても身近な種実です。原産地はヨーロッパ東南部で、中国へは漢の時代に張騫(ちょうけん)が西域から持ち帰ったとされています。漢字で胡桃と書くのは西域(胡)から伝わった果物(桃)だからです。日本でも弥生時代の遺跡から見つかっていたり、平安時代に食用や搾油原料に利用されていました。
クルミは良質の脂肪・タンパク・ビタミン・ミネラルを豊富に含んでいるので疲労時の栄養補給には最適です。また美肌効果も高く、かの西太后は「胡桃酪」というクルミをつぶして作った汁粉を好んで食べ、若さを保っていたそうです。
漢方では、生薬名を胡桃肉(ことうにく)といい、補腎・潤肺…すなわち肺や腎を補い、体を温めて体力をつける働きがあり、足腰の冷えや弱り・頻尿や夜尿症・慢性の咳や喘息に効果があると考えられています。また潤腸・健脳…便通改善・神経疲労にも有効です。ちなみに肺の症状に使用する場合には渋皮が付いたままのほうが効き目がよくなります。
私自身、考え事や頭を使って疲れたときに服用する漢方サプリメントには胡桃肉が含まれています。
でも、やはりいちばん美味しいのは甘辛い「くるみの佃煮」ではないでしょうか。
桃の原産は中国西北部の黄河上流地帯で3000年以上昔から栽培されていました。日本では古事記や万葉集に記載があり、縄文時代の遺跡からも種が出土しています。ただし現在の甘い栽培品種は明治以降になってから輸入されたものです。
中国では桃は仙果と呼ばれ、霊力が宿り、邪気を祓い長寿をもたらす果物とされています。桃源郷は人の世の理想郷を意味する言葉、桃の花は雛祭りの花で女児の健やかな成長を祈る行事、桃太郎は邪悪を鎮める力の象徴、そして孫悟空が盗んだのも福禄寿が持っているのも桃です。
桃は果肉、種仁、花、葉すべてに薬効があります。
漢方では種子の中にある核を乾燥させた桃仁(とうにん)が、血液の停滞を除去し血流を改善する薬として生理不順・生理痛・更年期障害・便秘・疼痛などに用いられます。桃仁は桃核承気湯・桂枝茯苓丸・大黄牡丹皮湯・潤腸湯などの漢方処方に配合されています。葉はあせもや湿疹に効果があるので、湯船に入れたり煎じ液をローションにして外用します。花蕾には利尿作用があり、小便不利やむくみに効果があります。果肉には肌に潤いを与えたり、乾燥性の便秘を解消したり、体の衰弱を補い気力を増す働きがあります。ただし食べ過ぎるとお腹が張ったり下痢をするので注意が必要です。
甘い桃って美味しいですね。子供の頃は桃の缶詰の甘いシロップを独り占めするのが夢だったなあ…。
アズキ(小豆)の原産は東アジアで、日本でも縄文遺跡から発掘されていたり、古事記の食物創世神話に登場したりしています。
赤い色が珍重され、おめでたい席には欠かせないのがアズキです。赤飯は室町時代から、小正月の小豆粥は平安時代から続いている習慣ですし、魔除けの行事や儀式にも供されてきました。現在の日本での主要産地は北海道で、そのほとんどが和菓子のあんの原料になっています。
食品、特に和菓子原料として身近なアズキですが、炭水化物以外にタンパク・ビタミンB1・食物繊維・カリウムが含まれ、実は様々な薬効があります。まず胃腸の消化吸収を促進し、水分代謝を活発にし、吐き気を解消します。また消炎・解毒作用にすぐれ、中国では食べ物の中毒や黄疸治療に利用しています。さらにサポニンが含まれているため、細胞の活性化を計れます。
そして何より有名なのが利尿作用で、尿量減少とむくみを目標に昔から心臓病・腎臓病・神経痛など多くの病気に応用されてきました。アズキを摂ると尿の出がよくなり、むくみが軽減されるのです。ただし、アズキをむくみに効かせる時には味付けしないこと、むくみの元となる水分・塩分・油物・生冷物や尿の出を悪くするもち米類・ギンナン・トウガラシなどを控えることが大切です。
漢方では、鯉とアズキを水煮した赤小豆鯉魚湯という処方があり、妊娠中のむくみや肝硬変などで起こる腹水の改善に使用します。
世界中でも豆を甘くして食べるのは日本人だけだそうで、とてもとても残念です。個人的にはジャパニーズオリジナルスイーツとしてあんこを世界中に普及して回りたいくらいなんですけどね~。
クロウメモドキ科のナツメ(棗)はアジア原産の果実です。万葉集に棗を詠んだ歌が二首あることからも日本への伝来が早かったことがわかります。「大和本草」には“棗、夏に芽を生ず故にナツメという”とあり、これが和名の語源とされています。
昔から甘みが好まれて食用に供され、お粥やスープに加えたり、砂糖漬けや健康酒の材料にもなります。
栄養学的には鉄分その他のミネラル類や葉酸・ビタミンB群・食物繊維などが多く含まれるので、特に貧血の方にはおススメの食材です。古代中国では五臓を養う五果(桃・栗・杏・李・棗)のひとつとされており「一日三個のナツメを食べれば老いが進まない」という諺があるほどです。
漢方では成熟果実を乾燥させたものを大棗(たいそう)といい、胃腸を丈夫にする働き(補脾益胃)や精神を安定させる働き(養営安神)を利用して、小建中湯や甘麦大棗湯といった漢方処方に配合されています。
また、生姜と組み合わせることで他の薬物の性質を穏やかにする(緩和薬性)とともに陰陽の平衡を回復させる(調和営衛)ことから、生姜-大棗のペアで実に多くの漢方処方に配合されています。
ナツメを使った料理で真っ先に思い浮かべるのは韓国料理の参鶏湯(サムゲタン)ですね。訳のわからない薬膳料理が多いなかで、参鶏湯は滋養強壮・疲労回復の効果を実感できる、数少ない優れた料理だと思います。
ユリ科ユリ属の鱗茎(球根)であるユリ根は、その甘みとホクホクとした食感に特徴のある野菜です。
ユリは北半球アジアを中心に世界中に分布していますが、鱗茎を食用とするのは中国と日本だけといわれています(ちなみに観賞用球根は食用と別品種)。万葉集や本草和名にも名前が記載されていることから、平安時代には薬用食材として利用されていたと考えられています。
ユリ根は良質のデンプン(炭水化物)が主成分で、ビタミン・ミネラル・食物繊維なども含まれており、栄養補給に優れています。正月料理や懐石料理、茶碗蒸し等でよく登場しますが、最近ではスープやおかゆの他、揚げたり蒸したり炊き込んだり様々な料理に使われていますね。ちなみに食用ユリ根の98%は北海道産で、その多くは関西に出荷されるのだそうです。
漢方では生薬名を百合(ひゃくごう)といい、肺や体を潤して咳や咽喉の乾きを和らげる働き(潤肺止咳)や、むくみを取る働き(行水消腫)とともに、精神を安定させる働き(清心安神)があるので、不定愁訴・不眠・ヒステリー・動悸・神経衰弱などに効果があります。現代でいうノイローゼのような症状を古代中国では百合病といい、ユリ根はこの百合病を治すことから百合根という名がついたともいわれています。
ユリ根は微かに体を冷やすので、体が冷えて咳や痰が出たり調子が悪いときは控えることが肝要です。
子供の頃、茶碗蒸しの底に沈んでいるユリ根を見つける度に、何で“こんなもの”が入ってるんだろうと不思議に思っていた私です…。
身近な薬草…とはちょっと言いにくいのですが、近年日本でも徐々に知名度が上がってきていると感じるのがアブラナ科ホソバタイセイの根である板藍根(ばんらんこん)です。
ホソバタイセイはヨーロッパ原産の植物です。葉は大青葉(だいせいよう)といい、生薬としても使われますが、古くから藍染めの染料として利用されており、板藍根の「藍」の名前の由来と言われています。日本では北海道にハマタイセイがあり、やはりアイヌ民族が染料に利用していました。
中国では漢方の抗生物質とも称され、抗ウイルス作用があることから風邪やインフルエンザをはじめとする感染症の予防に用いられ、冬場になるとうがいをする際に板藍根を使うのが風邪対策の定番となっています。また解毒・抗炎症作用があることからニキビ・湿疹・吹き出物や口内炎・帯状疱疹・細菌性胃腸炎・肝炎などにも幅広く利用されます。
大人から子供まで幅広い年代層で使用できるため、日本では秋冬の風邪インフルエンザ対策としても、また夏場や季節の変わり目などでも感染症が増える時期にはとても有効です。
漢方分類では熱を冷まして解毒する清熱解毒薬なので、熱感のない風邪や冷えにより悪化する症状には不向きで、胃腸虚弱や冷え症の方が服用される時にはしょうが湯などと合わせるとよいでしょう。
また風邪を引きやすい方の体質改善には、免疫力を高める漢方薬との併用がたいへん有効です。
独特の甘みと香り、そしてかすかな辛みを持つシナモンは世界最古のスパイスと呼ばれ、和菓子では京都の八つ橋、洋菓子ではシナモンロールやアップルパイなどに使われるとても身近な食材です。
シナモンは熱帯に生育するクスノキ科の常緑高木ケイの樹皮を乾燥させたもので、生薬としては桂皮(ケイヒ)あるいは肉桂(ニッケイ)と呼ばれます。ケイの若い細枝も桂枝(ケイシ)という生薬です。
日本には8世紀前半に伝来しており、正倉院宝物の中にも桂心(桂皮の上品)が奉納されています。
桂皮や桂枝には体を温めたり、血行を促進して痛みを和らげる働きがあります。桂皮がお腹や体内を強く温めるのに対し、桂枝は体表面や上半身を発汗させて穏やかに温めます。
そのため、桂皮は小建中湯・安中散・八味地黄丸・当帰四逆湯・十全大補湯などの温裏薬(体を芯から温める働きのある漢方処方)に配合され、桂枝は桂枝湯・葛根湯・小青龍湯・五積散などの解表薬(体表を温めて発汗させる働きのある漢方処方)に配合されています。
ただし医薬品の品質企画書である日本薬局方では桂皮のみが掲載され、桂皮と桂枝の区別がなされていません。そのため日本の漢方製剤はすべて桂皮を使っています…桂枝湯といっても実は桂皮湯なんですね。
シナモンスティックやシナモンティー、ニッキ味の飴もすべて体を温めるものです。冬の寒さから身を守るにはとてもいいですよ。逆に暑がりやのぼせ症、吐き気がある人には不向きですので念のため。
サンザシ(山査子)は中国原産のバラ科サンザシ属の果実です。きれいな花や実をつけるため、日本では植物園や庭園にも植えられ、誰しも一度は見たことのある植物で、真っ赤な果実は生薬・果実酒・ドライフルーツ等に使用されます。
サンザシには食積(しょくしゃく)食滞(しょくたい)を解消…すなわち消化促進作用があります。特に肉類・油脂の消化を促進するので、肉食が多いメタボ体質の方の生活習慣病改善に役立ちます。また血の巡りをよくして瘀血(ドロドロ血)を改善する働きもあります。
漢方処方では主に保和丸・加味平胃散・晶三仙などの消食導滞薬に配合されています。なかでも山査子・神麹・麦芽を組み合わせた晶三仙は、消化と胃腸の働きを無理なく助け、血流も良くしてくれる安全で良い処方だと思います。ダイエットに応用するなら防風通聖散(ナイシトールやコッコアポ)等よりよほど安全だと思うのですが。
ちなみにサンザシは肉や魚の調理の際に加えると早く柔らかく煮えます。
身近なところでは、中華街に行くと果実をつぶして砂糖や寒天などと混ぜ、棒状に成形したドライフルーツがよく売られています。果実に寒性(冷える)のものが多いなか、サンザシは微温性なので私のようにお腹が冷えやすいタイプでも安心して食べられますし、甘酸っぱい味としっとりした食感がとても美味しいですよ。
なおサンザシは胃酸分泌を促進するので、胃酸過多や胃潰瘍の方は注意が必要です。
ハトムギはムギではなく、イネ科植物の種子です。ハトが好んで食べることからその名が付きました。
穀物の王様といわれるほど滋養に富み、アミノ酸・ビタミン・ミネラル等を多く含んでいます。
漢方ではヨクイニンと呼ばれ、胃腸虚弱や体質改善の重要処方である参苓白朮散(じんりょうびゃくじゅつさん)や多くの漢方薬に配合されています。
民間薬としてはイボ取りやシミ・肌荒れ改善に常用されるほか、水分代謝・尿排泄を良くしてむくみを解消したり、最近では前ガン細胞の増殖を抑制する働きも判明しています。
穏やかな性質のため使い勝手がよく、食材として料理に加えたり、お粥にして食べたり、煎じてハトムギ茶にして飲んだりします。特に、高温多湿の時期の体調管理には、オススメの薬材だといえます。
*ハトムギ茶の作り方
水600~800cc(カップ3~4杯)にハトムギ15gを入れ、 弱火で水が半量になるまで(40~50分)煮詰めます。
*ハトムギ粥の作り方
ハトムギと米(1:1)を別々に洗い、まずハトムギを水から(初め強火で、沸騰したら弱火で)煮込みます。20分位経ったら米を加え、さらに20~30分煮ます。
ハトムギはできれば一晩水に浸けておきましょう。 味付けは塩(+長ネギ、ショウガ)でします。